税務調査コラム

国税OBは税務調査に強いのか?国税OBは凄いのか?どう付き合えば良いか? No.3

2019.08.23

「元国税調査官」とは(第1回)

私のお客様や相談者である税理士の方々や一般の方々から「『元国税調査官』って凄いのですか?」「『国税調査官』って偉いのですか?」と尋ねられることが良くあります。


国税組織の役職名は、税務職員としての勤務経験がないと非常にわかりにくいものです。
私の周りの税理士の方々も完全に理解されている方は非常に少ないというのが実際です。


また、国税組織の役職名の中には、同じ名称のものが、国税庁、国税局、税務署に設置・配置されていたりするのですが、その職務内容や人事上の地位(任用や給与の位置付け)については、税務職員でも知らない、わからないことが多いというのが実態なのです。
これは、税務職員の多くは、そんなことを知らなくても、普段の仕事で困らないので、知らないのが当たり前なのです。
各役職の職務内容や人事上の地位(任用や給与の位置付け)について知っているのは、国税組織の中でも人事関係の事務に従事したことのある方のうちの一部の方だけですね。


そこで、税務調査の最前線を担当する「国税調査官」とそのOBである「元国税調査官」について、今回から何回かに分けて解説いたします。


国税調査官は、国税職員の役職名の一つです。
以前のコラム「「元国税庁職員」とは?」に書いたように、国税職員の官名(官職名)は「財務事務官」です。
これは採用1年目の職員も税務署長も同じです。
この官職名とは別に、役職名があり、国税調査官、統括官や税務署長もその役職名の一つです。
最初に国税職員として採用された段階では、当然のことですが、役職名はないため、単に「財務事務官」となります。
 採用後、数年経過すると、勤務成績に特に問題や事情がない職員は、ほぼ全職員が最初の昇任をします。
それが国税組織内で言う「専門官級」への昇任です。
この「専門官級」というのは、一般の組織の主任級に当たるものです。
※ なお、「専門官級」は、給与上の格付けにおいては、その職務の困難性などに応じて2級から4級という広い範囲に格付けされており、同じ「専門官級」の役職名であっても大きな隔たりがあります。この点については次回解説いたします。


専門官級には、その職員が従事する事務により幾つか役職名があります。
総務関係事務を担当する職員は「主任」、税務調査など課税事務を担当する職員は「国税調査官」、債権管理や徴収事務などを担当する職員は「国税徴収官」、査察事務を担当する職員は「国税査察官」、国税局や国税庁本庁で企画・立案・監理・調査などを担当する職員は「国税実査官」になります。


国税職員として採用された場合、まず役職のつかない財務事務官になり、数年経つと最初の昇任で国税調査官などの専門官級になるのですから、「元国税調査官」というのは、特別な実績や能力ではないのです。
「元国税調査官」の持つ意味合いとしては、以前に説明した「国税OB」とほぼ同じくらいの意味と理解していただいて良いと思います。


但し、ちょっと気に留めておいて頂きたいことを解説いたします。


それは、「国税調査官」の中には、税務署の各課税部門の特別調査担当や国税局の課税部の中の複雑な調査を担当する部署の調査担当、調査(査察)部の大規模法人の調査を担当する調査課(部門)の調査担当を行っている国税調査官がいるということです。


そして、このように特別な調査(複雑・困難・重要・大口の事案)を担当する部署の国税調査官の中には、その部署に何年も勤務し、毎年優良な調査実績を出している職員がいます。
このような職員は、「調査を行う能力」つまり「攻めの能力」が非常に優れていると言えます。


また、こういった調査の実施部署の中や調査の実施部署とは別の部署には、調査に関する審理や不服申立や訴訟に関する事務を行っている部署があります。


このような調査の審理や不服申立や訴訟に関する事務を行っている部署にも国税調査官が配置されていまして、そこに何年も勤務し、複雑・困難な事案を毎年、迅速かつ適切に処理している職員がいます。
このような職員は、「調査の弱いところを見つける能力や訴訟等で負けないように補強する能力」つまり「守りの能力」が非常に優れていると言えます。


このように「元国税調査官」の中には、それぞれの能力において非常に優秀な方もいらっしゃいますので、この点は良くご理解いただきたい点です。


国税OBの税理士の方で「元国税調査官」、「元国税調査官○○件調査」、「元国税査察官」、「元マルサ」などとご自身のPRをしているものを目にしますが、私は「そんな当たり前のことを表示して何の意味があるの?」、「国税調査官の経験があったとしても、現状で一番重要なこと、調査等の解決能力や実績をPRしていないけど大丈夫なの?」と思います。


私が現職時代にも、様々な国税の経歴を披露する方々と接してきました。


これまでの経験から正直に申し上げますと、
職歴などは、調査などの処理能力を推し量る上では殆どあてにならない
国税在職時にその方が残した具体的な実績がわからないような職歴を強調してくる場合は、実力がないことが多い
というのが正直な感想です。


結局は、何が得意でどのような実績を残してきたか、どれだけの能力があるか、何がどれだけできるのかという、個々の能力次第だということですね。


元国税調査官だからと言って、「税務調査に強い」とは限らないのです。


国税OBである私が敢えて言うのですから、ご理解いただけると思います。