税務調査コラム

税務調査事例 現金売上の脱漏・除外を過少申告加算税に! 書類の保存がない費用の追認を獲得!

今回は、ある税理士先生からの依頼で私が調査を支援した事例について紹介いたします。

なお、当サイトの意見にわたる部分は、私見であることをあらかじめお断りしておきます。

1 調査を受けた方 A氏

納税地: 関西地区 大阪市内

業 種: オーナー社長、不動産貸付業を兼業

税理士の関与: 法人決算のみ

 

2 調査の内容

税 目: 所得税

調査官の当初の指摘(主張):

① 主宰法人に物件を貸付けているが、その家賃(法人は未払計上)を申告していない。

② その他の貸付物件について、一部の物件の家賃(現金受領)を申告していない。

③ ①、②の取引等に係る書類は保存されており、A氏は当該売上を明白に認識していた筈である。

 にも拘らず申告していない、申告書に添付された収支内訳書にも記載していないのは、意図して脱漏・除外したと考えられ、重加算税対象と考えられる。

  ④ 費用については、書類を確認したところ過不足はない。

 

3 調査担当者との交渉ポイント

次の点について、極めて穏やかに質問、主張いたしました。

⑴ 2の③について、国税通則法第68条第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」たと判断した課税要件事実とその証拠は何ですか。

⑵ 費用について、当方の確認作業により、領収証などの書類は保存していないが、A氏の具体的で詳細な供述及び現金の流れや取引の状況からみて、支払いがあったことが合理的に推認できる事項については追認していただきたい。

 

4 調査の結果

⑴ 申告していなかった売上については、全て過少申告加算税の対象となりました。

⑵ 支払ったことが合理的に推認されるものについては追認(約19%加算)されました。

 

〇 調査後の感想

 不動産貸付による売上は、不特定多数の顧客に現金で物品を販売する場合の売上と比較すると、正確な売上を明確に認識でき易いと考えることはできます。

 しかし、正しい売上を認識していたものの過少申告を行ったということだけで、重加算税の課税要件である「隠蔽し、又は仮装し」たことにはなりません。

 そうでなければ、例えば、複数の勤め先からの給与所得がある方や複数の年金所得のある方が、一部の収入(所得)の申告を忘れた場合も重加算税の対象となってしまいます。

   過少申告については、意図的か意図的でないかに関わらず国税通則法第65条を適用します。

※ 当初の申告が期限後申告の場合は、無申告加算税(国税通則法第66条)となります。

 そしてその過少申告に「隠蔽し、又は仮装し」た事実があるかどうかを判断し、その事実があれば国税通則法第68条を適用するのです。

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 極めて個人的見解ですが、法人税の重加算税の取扱い通達(事務運営指針)では、「隠蔽し、又は仮装し」た事実の例として「脱漏」や「除外」の事実があった場合を掲げていますが、この点については以前から大いに疑問を感じています。

 まず「脱漏」や「除外」の定義がないので、どういうことが該当するか分からないのです。

 調査担当者が、「脱漏している」、「抜いている」、「除外している」とよく言いますが、それは唯一の意味を示す事実ではなく「評価」ですよね?

 また、帳簿書類への記載において「脱漏」や「除外」があると、それは「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等」となるのでしょうか?

 国税庁の通達には語句の定義がないので一般的な語句の意味を見ると、次のとおりとされています。

  脱漏 あるはずのものが抜け落ちること。遺漏。あるべきものが漏れ落ちること。

  除外 ある範囲や規定の外におくこと。取り除くこと。その範囲には入らないものとして取りのけること。

虚偽 うそ偽り。真実でない事を、誤ってまたは故意に、真実だとすること。真実ではないと知りながら真実であるかのようにみせること。

 この一般的な意味を見ると、どうしてこの(特に「脱漏」)意味するところだけで、「隠蔽し、又は仮装し」たことを示す事実に直結するのかよく理解できないのです。

 「その取引を故意に○○の方法で帳簿に記載せず、つまり脱漏・除外することにより隠蔽した」ということであれば、理解しやすいのですが…

 この項目、文言は、法人税以外の税目の通達には記載していないことも考えると、国民(納税者)が正確に理解できるように明確に定義しておく必要があると思います。

※ 過去の裁判所の判決文・判断をそのまま持ってきたのではないのでしょう。

 今後「脱漏」などを理由として重加算税を賦課される事案に携わった場合は、この疑問点を明らかにしたいと考えています。

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 今回の調査担当者は、当方からの質問等に対し、直ぐ重加算税の課税要件事実がないことを理解したので、違法な課税(誤った重加算税賦課)となりませんでした。

 全国の調査では、調査担当者が、特に調査の初期段階で、明確な根拠を示さずに「重加算税対象になると考えます」と指摘しているケースもあると思います。

 そのような場合には、法令等を十分に理解し、事実を的確に把握した上で、適切に質問・主張していただきたいと思います。 対応策がわからない場合は、お気軽に当事務所へご相談ください。

 

 次に、領収証などの書類の保存がない費用については、諦めることが多いのではないかと思います。

 しかし、支払いがあったことが合理的に推認できる事項については、間接証拠を積み上げるなどして、合理性を高めて追認するよう調査担当者に果敢に主張すれば、追加認容を勝ち取れます。

 この手法は、税務調査や査察調査においても事実の認定方法として行われており、国税不服審判所における裁決のための調査においても当然行われています。

 知識とスキルは必要ですが、調査を受けている方に有利な事実・主張となりますので、私は、常に積極的に実施しています。 対応策がわからない場合は、お気軽に当事務所へご相談ください。

 

 以上、参考になれば幸いです。

 

2019/09/03