税務調査コラム

税金の申告をしていない方、いわゆる無申告で不安な方 大丈夫です。№3

2020.08.27

 これまで確定申告をしていなかった方が新型コロナウイルス感染症で
影響を受ける事業者への助成金や融資などの手続きの相談に、
当グループの税理士事務所に来られるということがかなりありました。

 

 無申告の方がたくさんいらっしゃること、不安に思っていらっしゃること、
どうすればいいかわからず困ってらっしゃること、
いざ所得金額などを計算する際に様々な苦労・難しい点があることを
今更ながら再認識しました。

 

 税務調査を不安に思っている方だけでなく、

これまで税金の申告をしてこなかった方、

またアフィリエイトの報酬、FXの所得、

仮想通貨(暗号資産)やオンラインゲームの通貨(GC)などの

売買(RMT)などによる所得、

MLMによる報酬などを申告していない方なども

この記事を読んで、信頼できる税理士への相談や税金の申告の

参考にしていただければ幸いです。

 

※2020年8月配信当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

 

 前回に引き続き、長年、確定申告をしていなかった方の税務調査について説明します。

 

 この事案は、ある税理士先生からの支援要請で私が調査途中から対応したものです。

 

 今回でこの事案に関する説明は終了いたします。

 

 

 

⑶ ⑴、⑵を踏まえ最善と思われる対応策を検討

 

ア 税務署の調査の弱点を検討
  ここまで解説してきた⑴、⑵を踏まえて、私は税務署の調査の弱点は次のとおりであると分析しました。

 

〇 私が考えた本件調査の弱点

税務署は、調査額を確定しておらず、現状、直ぐに、税務署の調査額で適法に課税・追徴(更正・決定を行う)を行える状態にないこと。

税務署がその状態になるためには、

①納税者の保存する全ての書類の確認、取引先との取引状況の確認

②課税の根拠となる証拠の収集

③推計課税の比準となる同業者の抽出と証拠の保全

④資産負債面の検討

⑤審理担当部署での検討

などという作業に多大な時間・事務量を要すること。

 

イ 対応策

 

 前述した「税務署は、調査額を確定していない」という弱点は、
当方が100%有利という意味ではありません。

 

 これは、別の視点で考えると、税務署任せにしていると、調査はなかなか終わらないということ、そして調査を受けている方の精神的負担は累増するということを意味します。

 

 また、こちらから調査を受けている方の実態・実情を主張せずに、税務署の調査結果を待っているだけという対応をしていると、調査を受けている方の実態を適切に反映した税務署の調査結果(所得や税額など)とならない可能性が非常に高くなります。

 

 これは、前述したように、調査担当者が誤解に基づき判断(課税)していることをみても明らかでした。
 また一方で、税務署の「調査の終結に向けた意向」も把握し、それを踏まえて、終結に向かう方向での対応策を検討することも必要となります。

 

 そこで私は、把握・確認した状況を踏まえて、次の対応をとることとしました。

 

〇 私が考え、実行したこと

① 調査を受けている方の実態・実情を具体的に詳細に把握し、税務署に主張する。

 

 ・ 相当の時間を要してでも実態に近い所得金額や消費税額、資産・負債(貸借対照表)を調べる。

 

 具体的には、現年度の状況を正確に把握・検証し、それをベースとして、過去の年分について、各年分の取引動向や特殊性を正確に把握し、加味することで所得金額等を合理的に推認することとしました。

 

 上述したとおり、Aさんは、
過去の年分については、領収書等で保存のないものも多く、過去の年分の領収書などを短期間に完全に収集することは非常に難しいものの、現年度については、その時点では収集・整理・保管することが可能でした。

 

 そこで、私が国税当局在職時に行っていた調査における推計手法の一つである、
現年度の状況を正確に把握・検証し、それをベースとして、過去の年分については、各年の取引動向や特殊事情を正確に把握し、このベースへ適正に加味することで所得金額等を推認する方法を採用し、この方法は合理的であると主張することにしたのです。

 

 また、同時に「⑵ Aさんの状況確認」の「ア Aさんの実情の確認」に記載したとおり、生活の状況、資産や負債、消費支出などの状況などについて、過去から現在に至るまでの状況を確認することにより、各年の貸借対照表を簡易に作成しました。

 

 そして、この貸借対照表からみても前述の所得金額が妥当であることを補充的に主張することとしました。

 

 税務署の調査には、前述の「ア 税務署の調査の弱点を検討」に記載した弱点があります。

 

 税務署は、自身の調査額は確定していない中で、当方のこの主張に対抗するためには、早期に、実際の取引額を反証するか、当方の手法が不適正であることを証明した上で、税務署独自に推計課税を行い、税務署の採用する推計方法の方が合理的であることを証明しなければならないという事態に迫られるのです。

 

 なお、実際の作業としては、B税理士に現在の年分の取引状況を非常に短期間のうちに集約していただき、私がその集約データを検証・分析し、不備な点などについてはAさんに状況を確認し、現在の年分の収支状況を確定しました。

 

 そして、上記⑵でAさんから聴き取り、取引状況も確認した各年分の特殊事情などを加味して過去の年分の所得金額や課税標準等を合理的に推認しました。

 

 なお、現年度の状況を正確に把握するために行ったことは、主に次の2点です。

 

(ア)現在未整理状態で保管されている書類については整理・入力・集約・検証を行うとともに、収集・保存漏れ等を把握し、収集・保存漏れとなっている取引を把握するとともに、同様の事態が起きないよう手当する、

 

(イ)私が関与した日以降については、全ての書類を収集・保存する(※書類を保存することができなかった場合は支出・取引の記録をメモとして残す)。

 

※ 以上の2点は、私が国税当局で調査を担当しているときに、調査の相手方に調査の初期段階でお願いし、調査期間中も調査で臨場した都度、その実施状況を確認し、問題があれば改善を指導していた事項です。

 

② 税務署の調査担当者が税務署部内の上司等への説明や起案・決裁を受けやすいような資料を作る。

 

  本件については、税務署の調査には、前述の「ア 税務署の調査の弱点を検討」に記載した弱点があります。

 

 一方で税務署は、断片的で規則性がない資料や根拠の乏しい手法に基づく課税は不適切・不適法と考えますが、調査対象者の実態を反映していると考えられるようなある程度の期間の正確な資料・データに基づく課税標準の推計や過去の裁決事例や判決において合理性があると認められた手法(※その手法を使用した事案と基礎となる状況の類似性は必要)に基づく課税は適切・適法と考えます。

 

 そこで、この弱点を埋めつつ、適切な・適法な課税となるように、当方が資料を収集・算定作業を行い、税務署へ提出する資料を作成することとしたのです。

 

 私の行った推計方法のポイントは、現年度の状況を正確に把握・検証し、それをベースとして、過去の年分については、各年の取引動向や特殊事情を正確に把握し、このベースへ適正に加味することですので、それを説明・証明する資料を作成したのです。

 

 また、現年度の状況を正確に把握・検証し、それをベースとして、過去の年分については、各年の取引動向や特殊事情を正確に把握し、このベースへ加味することで所得金額等を推認することは合理的であるということは、国税不服審判所や裁判所で多くの事案について認められていますので、これに関する資料を作成しました。

 

 なお、「税務署部内の説明や起案・決裁がとおりやすい資料を作る」ことについては、私が税務署や国税局で多くの複雑・困難な調査に担当者・指導者・管理者・審理担当者として携わった経験をフルに応用しています。

 

③ 税務署の調査担当者が税務署の上司等へ説明し、了承が得られやすいように説明する。

 

 ①、②の2つの対応策で作成した資料を調査担当者に手交し、調査担当者が上司や審理担当者に説明(国税部内では『復命』といいます)する際に、チェックされ、質問されそうなポイントについては、上司等に説明しやすいように細かく説明しました。

 

 調査担当者は、私が提出した資料を持って上司(統括官)へ説明に行き、上司からの質問を携えて私のところへ戻り、その都度私からは、上司の質問に対する回答と次に上司が発するであろう質問とそれに対する回答を説明しました。

 

 調査担当者は、私と上司の間で、そのようなやり取りを何度か繰り返しましたが、最終的には、私の作成した資料通りで調査は終了することになりました。

 

 

 以上の対応により、私が受任して、税務署との交渉は2回行い、1か月弱で終了しました。

 追徴税額等は、国税・地方税・国保料等を合わせた総額で、当初の税務署提示額の半分以下(数分の一)となりました。

 

 調査を受けている方の実情を適切に把握し、その実情を示す根拠と合理性のある具体的な数字を算出し、税務署の調査担当者やその上司などが納得のいく説明を行い、様々な方向から交渉し、税務署の調査担当者、調査を受けている方の双方が納得する調査結果で早期に調査を終結することができたのです。

 

※ 税務調査を受けた場合の追徴税額などの状況についてはこちらのコラムをご覧ください。

 

 

まとめ

 このように、税金の申告をしていなかった方、無申告の方でも、税務調査を全面的にあきらめることはないのです。

 

 簡単ではないことですが、適切に対応すれば、その方の実態に即した調査結果、納税者が真に納得する結果にすることができるのです。

 

 「無申告だったのだから、細かいところまで見ずに、なるべく早く、適当に払って終わらせる。」という考え方もあります。

 

 そのように対応することは可能ですし、非常に簡単なことです。

 

 しかし、「適当に(いい加減な結果で)追徴を払って終わらせる」と税務署は何年かして、またやってきます。

 

 何故なら、税務署は調査の事績(数字だけでなく、調査の様子や代表者や応対した者の態度・言動まで)記録しているので、調査担当者からすると
「ここは、前回、そこそこの金額を抵抗もせず払ってくれた。」
「この税理士なら、その関与先なら、いくらか適当に払ってくれるだろう。」と考えるからです。

 

 

 現在発展している企業は、税金対策や税務調査を契機として、内部統制やコンプライアンスの確立や財務・会計の適正化を図ったことが適正な発展に大きく影響しているといっても過言ではないと私は考えます。

 

 苦難にあった時に曖昧な処理をするのではなく、
現実を正しく受け止めて、事後の改善・発展に生かすこと、
それでこそ、その苦難を、単なる苦難、負の出来事として終わらせるのではなく、
正しく乗り越えたことになると私は考えます。

 

 起きてしまったことをいい加減に処理したり、マイナスの影響だけで終わらせるのではなく、何らかの改善、プラスの効果につなげることで、ヒト・モノ・金・情報・経験などを無駄にしない、真に活かすということが大切だと思います。

 

 税金の申告をしていなかった方、無申告の方を含めて、記帳や記録の保存が完全ではなく実際の金額を算定することはできない場合に、実態に近い所得金額や消費税額、資産・負債(貸借対照表)を調べるためには、確かに、専門家のテクニックと時間を要します。

 

 それでも、
ご本人の経理の状況、申告すべき正確な所得金額や各種控除、納税額などを認識・理解していただき、
その上で、税務調査に対応していただいたり、適法な節税策や業務の改善などを検討していただいたりすることで、
事業の内容を正しく見直し認識する機会となり、その結果を企業の改善や発展につなげられれば、
時間やお金、労力や精神的負担といったコストも一番効率的となり、結果としてご本人が真に納得するものと私は考えております。

 

 

★あとがき★

 当コラムで記載することはできませんが、調査対応において、事実や法令適用の主張以外にも交渉テクニックはあります。

 

 円滑な処理に向けて、双方が納得のいく形に持っていく、そのために交渉で突くポイントは、調査担当者の事情や調査事案の状況などに応じてそれぞれです。

 

 勿論、事案等に応じた交渉方法・テクニックは当然あります。それは必要であり、有効なのです。
 e.g. 弱点、バーター、信頼関係、落としどころ など

 

 このような対応を的確に、効率的に行うには、勿論、相当な知識とスキルが必要です。
 対応策がわからない場合は、お気軽に当事務所へご相談ください

 

 

 3回にわたって掲載した今回の調査事例については以上で終わります。

参考になれば幸いです。

 

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

このコラムに関連するコラムはこちらです。

税金の申告をしていない方、いわゆる無申告で不安な方 大丈夫です。№1

税金の申告をしていない方、いわゆる無申告で不安な方 大丈夫です。№2

税金の申告をしていない方、いわゆる無申告で不安な方 大丈夫です。№3

 

なお、当サイトの意見にわたる部分は、私見であることをあらかじめお断りしておきます。

※ このコラムの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。

 

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