税務調査コラム

税務調査 いくら追徴されるの? 個人の方の場合

2020.08.24

 2020年8月現在、税務署の調査は、新型コロナウィルス感染症拡大防止の観点から、調査を受ける納税者の実情に十分配慮することとなっており、無理な調査は行わないこととなっているようです。

 ただ、国税局の調査をはじめ、不正・多額の申告漏れが見込まれる事案の調査は、本格的に行われつつあるようです。
 皆さん、ご注意ください。

 

 ここでは、国税庁が2019年11月に発表した平成30事務年度の個人の所得税・消費税の調査事績を分析し、解説いたします。

 → 法人の調査事績についてもこのコラムに掲載していますのでご覧ください。税務調査 いくら追徴されるの? 法人、会社の方

 

※2020年8月配信当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

【参考】国税庁が発表した調査事績の詳細はこちらをご覧ください。

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2019/shotoku_shohi/index.htm

 

 

※ 国税当局の発表する「事務年度」とは、その年の7月1日から翌年6月30日までの期間を示します。

 

 

【参考】 国税の調査とは

 国税の調査は、国税通則法(第74条の2から法第74条の6まで税目ごとに規定)に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で国税職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)です。
 「実地の調査」とは、この国税の調査のうち、当該職員が納税義務者の自宅や事業所等に実地に臨場して、質問検査等を行うものです。

 

 

【参考】 個人の実地調査

  個人の実地調査には、特別調査・一般調査と着眼調査があります。
1 特別調査・一般調査とは、高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を対象に取引先に対する調査を含め深度ある調査を行うものです。
  特に、特別調査は、多額な脱漏が見込まれる個人を対象に、相当の日数(1件当たり 10 日以上を目安)を確保して実施しているものです。
2 着眼調査とは、資料情報や申告内容の分析の結果、申告漏れ等が見込まれる個人を対象に短期間(原則3日以内)で行う調査です。

 

個人全体の実地調査の状況

所得税

① 調査の件数は約7万3千件(前年比101%)で、
そのうち調査を受けた過去の申告に何らかの誤りがあったのは83%です。

 

② 申告漏れ所得は、調査を受けた1件当たりでみると、
調査された全年分の合計で819万円を指摘されています。

 

③ 追徴税額(本来、申告時に支払っておくべき税金の差額(本税)と
申告漏れに対するペナルティとしての税金(加算税)の合計)
は、
調査を受けた1件当たりでみると、調査された全年分の合計で
131万円でした。

 

☞ 追徴税額の申告漏れ所得に対する比率は、約16%です。

 

※ 廣田の目👀
 国税庁が発表した②と③は、調査を受けた1件当たりの金額ですが、
これを誤りのあった1件当たりで計算し直すと、
申告漏れ所得は約988万円、

追徴税額の合計は158万円 ということになります。

 

 適法で間違いのない決算・申告を行っている納税者からすれば、
追徴される可能性は0(ゼロ)
ですから、納税者側に立って国税の
調査事績を分析する場合は、誤りがあった件数を
ベースに分析すべきと
私は考えます。

 なお、国税当局が調査1件当たりの係数を発表しているのは、
コスト分析・調査1件当たりのパフォーマンスの分析のためと
考えています。

 

 また、個人の調査事績では、法人の調査事績で発表されている
不正計算があったもの(隠ぺい又は仮装があったものは重加算税対象)
が公表されていません。その理由も公表されていません。

 

 この点について、私の国税当局在任時の経験から説明します。

 

 個人の重加算税の賦課割合は、年度、地域によって大きく変動する
ことがあるため発表しにくいのです。


個人の
全国の12国税局(事務所)と524税務署の調査事績をみると、
重加算税賦課割合は、税務署によって、国税局によって、年度によって
大きなばらつきがあります。

 

 その理由として考えられるのは、
個人の場合、重点的に調査を行う取引、業種などが地域や年度によって
変わるケースが多く、そのことで重加算税賦課割合も大きく変動する
ためだと思います。

 

 例えば、A税務署で、ある作物の生産農家を調査したところ、
現金売上を隠ぺいし、架空の労務費を計上するなどして
多額の所得を隠していたことが判明し、更に
「その作物、その地域の同業者では同じようにしている」という情報が
あったので、税務署はその同業者に対し、戦力を集中して重点的に調査を行います。

 

 そうするとその業種・地域の調査を継続している間のA税務署の
重加算税の賦課割合は非常に高くなります。

 

 ある税務署のある年度において重加算税賦課割合が100%というのは、
私が国税当局在籍時にいくつも目にしました。


だからと言ってその税務署管内の個人の納税者は全員が隠ぺい・仮装を
している訳ではないのですが、重加算税賦課割合100%という数字が
独り歩きする恐れはあります。

 

 一方でそういう調査対象がない地域、税務署、年度の重加算税賦課割合は
それほど高くはなりません。
私の経験からは、調査件数の多い税務署で20~50%というイメージです。
実際、重加算税賦課割合が0(ゼロ)の年度、税務署はいくつもあります。

 

 このように個人の場合、重加算税賦課割合は、年度、地域による開差が非常に大きいのです。

 

 開差が大きいと何が困るかというと、
発表した調査事績の重加算税賦課割合が高い時は、
「税金をごまかしている人、悪いことをしている人はそんなに多いのか。」という
印象を与えます。
 この印象は「多くの人がばれているのだから真面目に申告・納税しよう。」という
方向への動機付けには結びつかないのです。

 

逆に低い時は、
「(他の年度、地域と比較して)なぜ下がったのか、低いのか。国税の調査が
ゆるいのではないか。」と非難されることになります。

 

 法人(会社)の場合、帳簿の記帳・書類の保存をきちっと行うことが義務&当然
という前提であり、税理士が関与しているのが大半です。
 このため、法人は、税金について不正等が行われるケースはある程度の水準以下
であると推定できるのです。 実際、不正割合に大きな変動はありません。

 

 一方、個人は、そうではありません。
 所得の稼得形態、帳簿の記帳・書類の保存の程度、申告・納税に関する知識の程度、税理士の関与の有無などは、個人によってバラバラ、千差万別というのが現実です。
 個人の調査における重加算税の賦課割合を公表すると多種多様な個人の納税者について、その環境・状況に関わらず「個人の納税者は○○」といった十把一絡げの誤った印象を与える恐れがあり、メリットもないということで発表していないのだと思います。

 

消費税

① 調査件数は2万9千件(前年比101%)で、調査を受けた過去の申告に
何らかの誤りがあったのは82%です。

 

② 追徴税額は、調査を受けた1件当たりでみると、
調査された全年分の合計で約78万円でした。

 

※ 廣田の目👀
  これを誤りのあった1件当たりに計算し直すと、追徴税額は94万円です。

 

個人全体の実地調査のまとめ
 個人の場合、消費税課税事業者に該当しない方もいますので、
その場合は、所得税のみの調査となります。

 

 また、消費税課税事業者に該当する場合であっても、
ほとんど所得がない方は消費税のみの調査となることもあります。

 

 ただ実際の調査では、事業所得者など消費税課税事業者に対する調査が多く、
所得税と消費税を同時に調査・追徴されるケースが大半です。
このような場合、前述の所得税と消費税の合計を追徴されることになります。
 これを合計でみてみますと、
調査を受けた1件当たりでは、
209万円を追徴されたということですが、
誤りのあった1件当たりでみると 
約252万円 追徴 されたということになります。

 

無申告者、申告をしていない者に対する
特別調査・一般調査の状況

所得税
① 調査の件数は8.1千件(前年比105%)。

 

※ 廣田の目👀
 無申告者に対する調査件数は、前年から5ポイント増加しています。
 全体の調査件数に占める無申告者の件数の割合は
前年の約27%から約34%へと大幅に増加しています。
 これは、国税当局が個人の無申告者に注目し、
調査を重点化・強化していることを示していると思います。

 

 なお、国税庁は、調査した件数のうち何件に誤りがあったかを公表していませんが、国税当局は各種の資料情報の分析・検討に基づいて「申告義務がある蓋然性が高い」と判断して、実地に特別調査・一般調査を実施したのでしょうから、調査を受けた事案のほとんどは申告義務を指摘され追徴があったのだと思います。

 

② 申告漏れ所得は、調査を受けた1件当たりでみると、
調査された全年分の合計で2,035万円を指摘されています。

 

③ 追徴税額は、調査を受けた1件当たりでみると、
調査された全年分の合計で242万円でした。

 

☞ この追徴税額を申告漏れ所得に対する比率に換算すると約12%です。

 

※ 廣田の目👀
 無申告者の申告漏れ所得に対する追徴税額の割合(約12%)は、
実地調査の全体(約16%)よりも低くなっています。

 

 その理由は・・・
 申告をしている方の場合、
所得金額、所得控除、税額控除を一旦申告しているので、
調査で申告漏れとなっていた所得金額は丸々課税されるケースが大半です。

 

 一方、無申告の場合は、新たに所得金額、所得控除、税額控除を申告します。
 ですから、申告していなかった所得金額から
所得控除、税額控除を差し引いて追徴税額を計算することと
なりますので、課税対象となる所得は申告漏れ所得金額よりも
かなり少なくなります。

 

 また、所得税は、累進税率制度となっていますので、
調査を受けた方の課税される所得金額の多寡によって
適用される税率は5~45%(7段階)となります。
 申告漏れ所得金額が同じ場合でも追徴税額は
大きく異なることとなります。

 

 このため、申告漏れ所得に対する追徴税額の割合は、
無申告者の方が、実地調査の全体よりも低くなっているのです。

 

 国税庁は、無申告者以外の調査の状況について発表していませんが、
特別調査・一般調査の実績から無申告者の実績を差し引いて計算すると、
誤りのあった1件当たりの
申告漏れ所得は993万円、追徴税額は196万円となります。
 この追徴税額を申告漏れ所得に対する比率でみると約20%となります。

 

消費税

① 調査件数は9.6千件(前年比102%)。

 

※ 廣田の目👀
 無申告者に対する調査件数は、前年から2ポイント増加しています。
 全体の調査件数に占める無申告者の調査の割合は
34%(前年約33%)と非常に高い割合となっています。

 

 所得税と同様、国税当局が消費税の無申告者、
潜在している消費税課税事業者に注目し、
調査を重点化・強化していることを示していると思います。

 

 消費税の無申告者の調査件数は所得税(8.1千件)より
多いのです。
 これは、消費税は、売上(課税売上高)が課税標準となるため、
1千万円を超える売上があれば、人件費が多いことなどが原因で
所得金額が少なく、所得税は多くない場合でも消費税の課税事業者と
なるということが影響していると考えます。

 

 また、消費税は、消費者が負担する税金を事業者が預かり税務署に
申告して納める方式です。
 国税組織内では、消費税は「預かり金的性格の税」であるため、
より一層、適正に課税・徴収(申告・納税を確保)しなければならないと考えています。
 このため、消費税の無申告者の調査件数は所得税よりも多くなっているだと思います。

 

「売上高★は1千万円を超えているけど利益は少ない」という方は、
一度、信頼できる税理士に相談されることをお勧めします。

★ 課税売上高
消費税法上の消費税の課税対象となる取引(事業活動に付随して
行われる取引、例えば、事業用建物の売却なども含まれます。)
の売上高です。ほとんどの取引に係る売上高が課税売上高に該当
しますが、土地の売却収入、住宅家賃、社会保険診療報酬など、
消費税の非課税取引に係る収入等は除かれます。

 

② 追徴税額は、調査を受けた1件当たりでみると、
調査された全年分の合計で176万円でした。

 

無申告者の実地調査のまとめ
〇 無申告 個人 1件当たりの追徴税額の状況
 
① 無申告者
② 無申告以外
  誤り有
対比
①/②
 
万円
万円
所得税
242
196
1.2
消費税
176
75
2.3
合 計
418
271
1.5
(注) 無申告は、「誤りあり」として整理しています。
    特別調査・一般調査の実績です。 

 

 無申告の場合、そもそも申告をしていないので当然のことかもしれませんが、調査による追徴税額は、無申告以外と比較して非常に多額となっています。

 

消費税は、売上が課税標準となるため、1千万円を超える売上があれば、人件費が多いことなどが原因で所得金額が少ない場合でも、消費税は課税となるので追徴額は多額となっています。

 

 無申告の場合、申告誤りのペナルティとして加えられる税金(加算税)は、申告のある場合の加算税よりも高い率となります。
【参考】 加算税については、当コラムの「申告に漏れや誤りがあった場合、申告をしていないこと(無申告)が分かった場合の対応 №2」をご覧ください。

 

 昨今、有名芸能人などが無申告であったことが露見し、TV出演自粛など世間を騒がせる事件として報道されています。
 追徴される税額を見ても、無申告は「割に合わない」ということは、ご理解いただけると思います。

 

まとめ

 税務署は、申告書の内容を検討し、様々な資料・情報を収集検討し、
「これはおかしいのではないか」、
「ここは、調査を行い、追徴課税すべきではないか」という
納税者を抽出しています。
 そして、抽出した納税者の中で、調査の必要度合い、優先度合いを考慮して、
実地に調査を行うものを選定しているのです。
 このため、実地調査を受けた場合、過去の申告について調べられ、
個人では83% 何らかの誤りが見つかるということです。

 

 そして、調査で誤りが見つかった場合、1件当たり
所得税は 158万円  消費税は  94万円  両方だと 252万円
も追徴されるのです。

 

 もし、無申告だった場合、
所得税は 242万円  消費税は 176万円  両方だと 418万円
もの税金を支払わなければならないのです。

 

 これに加えて、国税では、原則として法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、利息に相当する延滞税が自動的に課されます。

 

 更に、各種の住民税、事業税、国民保険料などの地方税も国税の調査結果に基づいて追徴されますし、公営住宅に入居している場合の家賃や幼稚園の保育料金などが増加することもあります。

 

 税金のことは、「面倒くさい」、「ばれない」、「いずれちゃんとしよう」と
思っておられる方もいらっしゃると思いますが、ここまで説明してきましたように
調査に入られると金銭的に大変なことになります。

 

 また、取引先への調査なども行われますし、
ご自身で過去の取引や支出などについて詳細に説明することにもなり、
時間も奪われ、精神的負担も大きいものとなります。

 

 特に、
 無申告だった場合や何らかの多額な所得を申告していない場合については、
「割に合わない」結果となるということは、上記の記事を見ていただいて
ご理解いただけると思います。

 

 ご自身とご家族の生活、そして従業員や取引先を守るためにも、適切に対応しておくことをお勧めします。

 

 100点満点の対応でなくていいのです。

 

 税金のこと、申告のことについては、まず信頼できる税理士にご相談ください。

 

 

なお、当サイトの意見にわたる部分は、私見であることをあらかじめお断りしておきます。

※ このコラムの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。