税務調査コラム

国税OBは税務調査に強いのか?国税OBは凄いのか?どう付き合えば良いか? No.2

2019.08.22

「元国税庁の職員」とは?

一般的に「国税庁の職員」と言いますと、以前のコラム「国税OBとは」の組織図を見て頂いたら分ると思いますが、国税関係の職員ということになります。
また、キャリア官僚を除く国税関係の職員の採用試験は、国家公務員試験である国税専門官試験(大学卒業程度)や税務職員採用試験(高校卒業程度)などであり、これは国税庁が行っているものですから、国税関係の職員は「国税庁の職員」と言って間違いはありません。


ただ、国税部内においては、「国税庁」とは「国税庁本庁」を指します。
なお、国税局員として勤務した経験がある人は、国税庁本庁の職員のことを「国税庁の職員」とは呼びません。
「庁の○○」、「霞が関の○○」、「霞の○○」と言うのが一般的です。


インターネット上の国税OBの税理士のHP(ホームページ)を見ますと、「国税庁○○年勤務」、「元国税庁職員」、「元国税庁 国税調査官」などと記載しているのを見ますが、それは必ずしも国税庁本庁に勤務していたという意味ではない場合があることに注意していただきたいですね。
本当に国税庁本庁に勤めていた方は、国税庁本庁における勤務部署を明記しているはずです。
  

次に、国税庁本庁に勤めていたことの価値・意義について簡単に解説いたします。
※ 詳しい内容は、今後の私の講演会や執筆中の書籍などで説明いたします。


国税庁本庁は、組織上は、国税組織の最上位に位置する機関で、税務行政を執行するための企画・立案を行い、これを各国税局・沖縄国税事務所に指示し、各国税局・沖縄国税事務所や税務署の事務の指導監督に当たるとともに税務行政の中央官庁として、各省庁その他関係機関との総合調整を行っています。


国税庁本庁の幹部のうち、主要な幹部は、いわゆるキャリア官僚(現在の「総合職試験採用者」)で、幹部以外であってもキャリア官僚が、課長補佐や係長として従事していますが、キャリア官僚は採用数が少ないので、国税庁本庁の職員のほとんどは、各国税局管内で行われた国家公務員試験である国税専門官採用試験(大学卒業程度)や税務職員採用試験(高校卒業程度)による採用者が出向しているというのが実態です。
これは財務省本省の職員構成においても同様となっています(特に主税局は国税職員がその多くを占めています)。


では、各国税局管内で採用された職員のうちどのような人が国税庁本庁で勤務するのかと言いますと、詳しい内容は現職時代に知り得た秘密となります(守秘義務)のでざっくりとした説明になりますが、①国税庁本庁の部署に人員の空きがあり、②国税局の人事担当者部署が国税庁本庁(更に財務省など中央省庁を含む)の空き部署仕事に向いていると思われる人物を選考し、③選考された人物が国税庁本庁の勤務を希望している場合に、④国税庁本庁の人事担当部署がその人物を検討して決定するという流れになります。


これを読んでピンときた方もいらっしゃると思いますが、国税庁本庁の職員は、全員が各国税局管内の職員の中から最も優秀な職員から選ばれるわけではないのです。


実際は、各国税局内に大変優秀な人物がいても、地元の国税局がその人物を「将来の当国税局管内の組織を支える基幹の要員にしたい」と考え敢えて選考しない場合や選考されてもその人物が本庁勤務を希望しないということが結構多いのです。
そのような場合、非常に優秀な職員であっても国税庁本庁では勤務しないということになります。
そして、そうではない誰かが、その方の代わりに国税庁本庁に勤務することとなる訳です。


※ 以前は、地方から東京、中央省庁への転勤を嫌がる職員や家族事情のある職員が多かったのですが、最近では退職者の増加と並行して若手職員の採用数が増えており、独身の職員が増加していることもあって、採用後4~7年の職員や国税調査官級になって数年以内の職員を中心に東京、中層省庁での勤務を希望するケースが多くなっています。
希望した職員は、余程問題がある場合を除いて、東京、中央省庁勤務が叶うという傾向になっています。


一方、国税庁本庁には約1千人の職員がいます。
そして、毎年その2~3割が人事異動で入れ替わります。
つまり、国税庁本庁に勤務した経験のある職員の数は、非常に多いわけです。
職員数の多い組織のご多分に漏れず、国税庁本庁の職員も、様々な職員がいます。
個々の能力、性格、実績などは、大きく異なっています。
つまり、国税庁本庁に勤めていた方であっても優秀とは言えない方もいるのです(「中には非常に優秀な方もいる」という言い方が正しいですね)。


国税OBの税理士の方で「国税庁○○年勤務」、「元国税庁職員」、「元国税庁 国税調査官」、「元国税庁 マルサ」などと自己PRしているものを目にしますが、私は「そんな当たり前のことを表示して何の意味があるの?」、「国税庁本庁の勤務経験があったとしても、現状で一番重要なこと、調査等の解決能力や実績をPRしていないこの人は大丈夫なの?」と思います。


私が現職時代にも、様々な国税の経歴を披露する方々と接してきました。
これまでの経験から正直に申し上げますと、
職歴などは、調査などの処理能力を推し量る上では殆どあてにならない
職歴を強調してくる場合は大して実力がないことが多い
というのが正直な感想です。
結局は、何が得意でどのような実績を残してきたか、どれだけの能力があるか、何がどれだけできるのかという、個々の能力次第だということですね。
元国税庁職員だからと言って、「税務調査に強い」とは限らないのです。


国税OBである私が敢えて言うのですから、ご理解いただけると思います。


ちなみに、国税関係の職員の官名(官職)は「財務事務官」となります。
これは、国税庁は、内国税(国税のうち関税、とん税及び特別とん税を除いたもの。)の賦課徴収のために、財務省の外局として設けられているものですから、その職員は財務省の職員ということになる訳です。
なので、国税関係の職員は、税務署の署員も、税務署長も、国税局や国税庁の職員や幹部も官名は「財務事務官」であり、役職名がそれぞれ異なるということです。