前回に続き、長年、確定申告をしていなかった方の税務調査の結果について説明します。
この事案は、ある税理士先生からの支援要請で私が調査途中から対応したものです。
これまで確定申告をしていなかった方が新型コロナウイルス感染症で
影響を受ける事業者への助成金や融資などの手続きの相談に、
当グループの税理士事務所に来られるということがかなりありました。
無申告の方がたくさんいらっしゃること、不安に思っていらっしゃること、
どうすればいいかわからず困ってらっしゃること、
いざ所得金額などを計算する際に様々な苦労・難しい点があることを
今更ながら再認識しました。
税務調査を不安に思っている方だけでなく、
これまで税金の申告をしてこなかった方、
またアフィリエイトの報酬、FXの所得、
仮想通貨(暗号資産)やオンラインゲームの通貨(GC)などの
売買(RMT)などによる所得、
MLMによる報酬などを申告していない方なども
この記事を読んで、信頼できる税理士への相談や税金の申告の
参考にしていただければ幸いです。
※ 税務調査を受けた場合の追徴税額などの状況についてはこちらのコラムをご覧ください。
※2020年8月配信当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
⑵ Aさんの状況確認(つづき)
◇ 税務調査対応における 税金の申告をしていなかった方、無申告の方の配慮ポイント ◇
1 正確な所得金額や消費税額を認識していない、理解していないという点
税金の申告をしていなかった方、無申告の方の場合、税務調査の中で一番大きな問題となるのは、調査を受けている方が、自身の正確な所得金額や消費税額を認識していない、理解していないという点です。
どういうことかと申しますと、税金の申告をしていない方は、ほとんどの場合、
① 取引に関する帳簿をつけていない、データを残していない
② 取引の証拠資料(納品書・請求書・領収書など)を完全に保管することはできていない
③ 過去数年間の所得金額や消費税の金額が正確に幾らになるのか計算したことがない
という状態なのです。
※ 無申告の方の中にも、全ての資料を残し、ご自身で所得金額や消費税額を正しく計算し、認識している方はいらっしゃいますが、そういうケースは極まれですね(ご自身で所得金額や消費税額を正しく計算し、認識している方が税金の申告をしていないということは・・・、余程の事情があったということでしょう)。
そうすると、税務署が調査した所得金額や税額などが調査を受けている方の実態に合っているのか、妥当な金額なのか、当の本人はわからないということになります。
これは同時に、税理士が関与した場合も、調査担当者に税理士が主張・反論する内容は適正なのか、また税理士が調査を受けている方に「この辺りが適正な調査の妥結額ですよ。」と助言しても、それが妥当なのかご本人は判断できないのです。
➢ ポイント
調査を受けている方が自身の正確な所得金額や税額を認識・理解している場合ですと、その金額と調査額とを比較考量して、調査結果に応じるか否かを容易に判断できるのですが、そうでない場合、調査額を理解・納得することは困難であり、調査の終了や納税等の資金調達が困難になるのです。
少し考えていただきたいのは、税務署が調査した所得金額や税額などが、本来、正確に記帳され、記録が残っていた場合の正しい金額を下回る額になるということは通常考えられないということです。
それはそうですよね。
税務署に調査してもらった方が実際よりも税金が安くなるというのであれば、誰もまともに申告しなくなりますからね。
無申告の方も含めて正確な記帳や記録の保存がない場合、税務調査は推計で所得金額や税額を算出することとなりますが、如何に合理的な方法で推計されたとしても、本来の所得金額や税額と同じ額になるということはほぼあり得ないことです。
むしろ、調査を受ける側からすると「帳簿や書類がなくて、税務署が推計した場合の調査額は、本来の金額よりも高い可能性がある。」と覚悟して、対応した方が良いのです。
2 調査を受ける方に調査の結果や影響に相場観・現実感がないこと
税金の申告をしていなかった方、無申告の方が税務調査で困る点がもう一つあります。
それは、調査を受ける方に調査の結果、つまり追徴額や処分の重さ・影響に相場観・現実感がないということです。
どういうことかと申しますと、
税の申告を行っている方は、自身の所得金額が幾らで、どのような計算をして、何%の税率で納税すべき税金が算定されているかについて、大体のことをご存知です。
また、「重加算税をかけられると大変なことになる」、「青色を取り消されると大変だ」、「役員賞与に認定されたら大損だ」などということも大体知っています。
ですから、申告に誤りや漏れがあり、修正しないといけないとなった場合も、修正する金額が幾らなら追徴がどれくらいになるか、国税以外にどれだけ影響するかなどということを理解することが容易なのです。
例えば、
100万円の所得金額が申告漏れとなっていた場合、
物販業による事業所得の方で 自身の所得税の税率が10%の方だと、
所得税10万円と延滞金と場合によっては加算税を追加で納付すること、
また住民税については税率10%で住民税10万円が追加となり、
更に事業税が課税される場合は事業税の税率5%で5万円が追加になる
ことなど、100万円の所得が申告漏れであった場合、
所得税・住民税・事業税だけで25%強、3割くらいの追加納付が必要となる
ということを容易に理解できるのです。
ですから、税務署に指摘された金額が幾らなら、どれくらいの追徴になるかというおおよその相場がわかっているので、
指摘された内容さえ正しければ納得して終了しやすいわけです。
これが税金の申告をしていなかった方の場合、そうはいきません。
そもそも申告をしていないので、自身が適用される税率は「ない」からわかりませんよね。
申告はしていないけど、自身の正確な所得金額や所得控除や税金を計算したことがあるなんてことがない限り、本来適用される税率もわかりませんので、税務調査により指摘された所得金額などで幾ら税金が追徴されるか全くわからないのです。
ですから、税金の申告をしていなかった方、無申告の方の場合、
・ 「税金は開業して3年、5年はかからないので申告しなくていい。」、「税務署に申告したら半分税金で持っていかれる。」などという根拠のない情報を信じる方
・ 「『そんな金額払えない』とゴネれば何とかなるだろう。」という「ごね得」を信じる方
・ 「税務署が来たらしょうがない。指摘された金額を払うしかない。」とあきらめる方
が多いのです。
一方、無申告の方の中には、税務署の調査額に対し、「そんなにある筈ない」と強く主張する方も多いです。
しかし、調査担当者から
「そうは言っても、記帳も記録もないんでしょ?!」、
「そう言うのなら正確な取引金額や決算書を証拠を添えて出してください。」、
「そもそも申告していませんよね!」
と言われると、
上述したとおり ご自身の記帳・記録の保存が不十分なため、
「書類が残っていないから仕方ないか」、
「幾らが正しいのかよくわからないけど税務署が言うのなら仕方ないか」
とあきらめて、
実態に即した所得金額や税額を追究することなく(=心から納得することのないまま)、最終的には税務署の調査額で終了することも非常に多い
というのが、税金の申告をしていなかった方、無申告の方のもう一つの配慮すべきポイントなのです。
これは、自身の正確な所得金額や所得控除や税金を計算したことがないからある意味仕方ないのかもしれませんが、実際に税務調査を受けて、何の対応を取らなかった場合、大変な目に遭うわけです。
3 以上を踏まえた対応
以上のポイントに配慮した私の対応方針は以下のとおりです。
まず、私の調査対応は、どのような事案であっても調査を受けている方が自身の所得や税額を正しく理解・認識していただいた上で納得して調査を終了することと、調査を契機として事後において、適法・適正な計算と申告ができるようになっていただくことを目的とした対応をします。
このために、税金の申告をしていなかった方、無申告の方を含めて、
記帳や記録の保存が完全ではなく実際の金額を算定することができない場合であっても、
調査を受けている方の業務の内容や状況、
更に生活の状況、資産や負債、消費支出などの状況などについて、
過去から現在に至るまでの状況を確認するとともに、
現在進行中の年分については正しい記帳方法や記録の保存方法を
習慣づけていただくなどして、
極力多くの資料(証拠)を集めて、
実態に近い所得金額や税額を算出することとしています。
そして、それをご本人に認識・理解していただき、その上で税務署の調査額を検討することにより、ご本人が真に納得する調査結果に導くことができるものと考えております。
◆ Aさんのケース
Aさんの場合、どうであったかというと、上述した確認により次のことがわかりました。
・ 開業以来、売上はかなり増えているが受注単価は、それほど上がっていない
→ 外注費など費用の増加割合の方が高い → 所得や資産は増えていない
・ 受注拡大のための接待交際費が増えている
→ 所得や資産は増えていない
・ 過去の年分については、費用に関する領収書で保存がないものが多数ある
→ 現在残っている領収書だけで計算すると、所得金額は実際よりも過大となる
・ 生活の状況は開業以来大きく変わっておらず慎ましいものである
→ 資産・消費支出は増えていない、負債は減少していない
・ 過去の年分においてはそれぞれ様々な特殊事情があったこと
→ 税務署が行う一般的な推計課税(各年の売上金額を基礎とした同業者比準方式)を適用されるとAさんの特殊事情が反映されず、所得金額は実際よりも過大となる可能性が高い
イ Aさんの調査対応の状況
これは、調査を受けている方が税務調査の場でどのような言動を行ったかを具体的に確認することです。
税務署の調査というものは、緊張するものです。
税務署の調査に「慣れている」、「緊張することはない」、「どんな質問・検査に対しても適切かつ的確に回答・対応できる」という方は少ないのではないでしょうか。
税務署の調査担当者から発せられる様々な質問、専門用語交えた確認などへ対応する際に、適切・的確な回答が行えなかった、曖昧な回答をしてしまった、間違ったことを答えてしまった、どんなことを答えたかすら覚えていない、或いは調査官に間違った認識を与えてしまったことに気づいていないなどということが起きるのは当然です。
このような場合、その状態を放置していると税務署の調査担当者に誤った認識を植え付けてしまい、誤った認識に基づいて課税や処分が行われてしまいます。
ですから、上述した「⑴ 税務署の調査内容の確認」を行うのと同様、調査を受けている方が税務調査の場でどのような言動を行ったかを具体的に確認することが必要となるのです。
◆ Aさんのケース
Aさんの場合はどうだったかと申しますと、
税務署の調査担当者は、Aさんから提示された売上のデータや預金通帳をみて、「開業以来、売上はかなり増えているので利益もかなり増えたのではないですか。月にどれくらい残りますか。」と質問していました。
この質問に対し、Aさんは
「そうですね。20万か30万かなぁ。帳面がないのでわかりませんが…」と答えていました。
そこで税務署の調査担当者は、
「Aさんは、毎月の手元に残るお金(=最終の儲け)が少なくとも20~30万円以上あることを認めた」と解釈し、調査で確認した売上データとこの応答に基づいて、見込みの調査額(追徴額)を算定し、Aさんに伝えたのです。
皆さんは、Aさんのこの応答や対応をどう感じましたか。
皆さんは、調査担当者の「月にどれくらい残りますか。」という質問の意図を理解できますか。
私は、B税理士からこの状況をお聞きした時に、
調査担当者の質問の意図は、
「何もかも使って手元に残るお金はどれくらいですか?=月の所得金額」を尋ねたつもりなのだろうが、
日々の記帳や記録の保存ができていない人に、調査の初期段階で、それも、現場ごとの利潤のことか、
月の所得金額のことか、資産の増加のことかわからないような曖昧な質問をするなんて…
この担当者はあまり調査に精通していないんじゃない と思いました。
私がAさんに、この質問をどう理解して答えたのか尋ねたところ
「外注費や現場での消耗品などを支払った後はどれくらい残るか」と尋ねられたのだと思って答えた
ということでした。つまり、現場ごとの粗利益を答えたのですね。
しかし、調査担当者は毎月の儲けと誤解したのです。
Aさんは、調査担当者から追徴税額の概算を聞いた時に、
・ 自分は帳面をつけていないので年間の所得や消費税の金額は全くわからない。
→ どれだけあるかわからない → そんなにあるかどうかもわからない
・ 税務署の調査官がそう言うのなら、それだけ払わないといけないのだろう。
→ 仕方ないのかな → どうすればいいかもわからないなぁ
・ お金はないがどうやって支払えばいいのだろう。
と考え、いわゆる、あきらめの心境と漠然とした不安しかなかったと
仰っていました。
これこそ、上述した
「税金の申告をしていなかった方、無申告の方の場合、税務調査の中で一番大きな問題となること、それは、調査を受けている方が、自身の正確な所得金額や消費税額を認識していない、理解していないということ」の問題点が現れていたのです。
もしAさんが、最後までAさん一人で税務調査に対応していた場合、恐らく、調査担当者の出した調査額(追徴総額 数百万円)で調査は終っていたことでしょう。それは、Aさんも認めておられました。
税務調査では、こういうことがよく起きます。
調査担当者の質問とそれに対する納税者の回答の意図が異なっていて、後で色々と面倒なことになるのです。
一番大変なのは、調査を受けている方が、ご自身の実情や実態、取引の事実などを税務署の調査担当者にうまく説明できない、理解してもらえない=主張や証明することができない という場合です。
このような場合は、税務署の調査が大詰めを迎え、大体の所得金額、追徴税額や処分の内容を聞いたときに、ご本人の全く思わぬ調査結果(予期せぬ多額の追徴税額や不利益な処分)となっていることに驚くということになります。
こういったことを防ぐ意味でも、税務調査の対応は、専門家に、相談し、全てを打ち明けて資料を提供し、後は任せた方が、結果として、お金、時間、労力、精神的な負担など様々な点で良い結果となるのです。
私は、調査を受ける方にあらゆることをお聞かせいただくことで、
➢ 仮に調査を受けている方が税務署の調査担当者へ誤った回答・対応を行っていた場合であっ ても、調査担当者の誤解などを私の方で訂正すること
➢ 調査を受けている方の実情や実態、取引の事実などを税務署の調査担当者にうまく説明できなかった場合も、私の方で事実・実情に即した課税となるよう主張や証明すること
ができるわけです。
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今回はここまでです。 調査の対応策などについては、次回記載します。
このコラムに関連するコラムはこちらです。
税金の申告をしていない方、いわゆる無申告で不安な方 大丈夫です。№1
税金の申告をしていない方、いわゆる無申告で不安な方 大丈夫です。№2
税金の申告をしていない方、いわゆる無申告で不安な方 大丈夫です。№3
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☆ 本件のポイント(最終回の「まとめ」より)
税金の申告をしていなかった方、無申告の方でも、税務調査を全面的にあきらめることはないのです。
簡単ではないことですが、適切に対応すれば、その方の実態に即した調査結果、納税者が真に納得する結果にすることができるのです。
「無申告だったのだから、細かいところまで見ずに、なるべく早く、適当に払って終わらせる。」という考え方もあります。
そのように対応することは可能ですし、非常に簡単なことです。
しかし、「適当に(いい加減な結果で)追徴を払って終わらせる」と税務署は何年かして、またやってきます。
何故なら、税務署は調査の事績(数字だけでなく、調査の様子や代表者や応対した者の態度・言動まで)記録しているので、調査担当者からすると
「ここは、前回、そこそこの金額を抵抗もせず払ってくれた。」
「この税理士なら、その関与先なら、いくらか適当に払ってくれるだろう。」と考えるからです。
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なお、当サイトの意見にわたる部分は、私見であることをあらかじめお断りしておきます。
※ 当コラムなどの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。
◇ ほわいと税理士グループ 当事務所の取組方針
一般の方だけでなく、税理士など資格のあるプロの先生方が
税務に限らず
「この場合、どう対応したらベストなの?」
「これって、本当にこの判断でいいの?」
「今更、誰にも聞けない…これってどうしたらいいの?」
などと迷う時に
① 事実・実情・証拠などを確認し、最適な助言を、早期に、確実に行います。
② ご要望に応じ、最適の対応を行うための具体的な支援
(資料作成、面接‣出張、複数関与、複数受任・共同受任・復代理など)を行います。
☆ スポットで支援することが業務です。
「顧問先を奪われるのでは?」という心配は不要です!